こんにちは。 ミドリケムです。
本日は芳香族求核置換反応について解説していきます。
芳香族求電子置換反応については聞いたことがあるという人は多いと思いますが、芳香族求核置換反応については少しマイナーかもしれません。
しかし、有機化学において芳香族の反応は極めて重要であり、この反応も重要となってきますので。しっかりとおさえておきましょう。
当記事では主に
・芳香族求核置換反応
・反応機構(SN1,SN2反応であるか?)
・ベンザイン
について解説していきます。
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芳香族求核置換反応とは?
結論からいうと、芳香族求核置換反応とは電子吸引性基をもった芳香族が電子豊富な求核試薬から求核攻撃をされ、置換する反応です。芳香族求電子置換反応とは逆で芳香族が求核攻撃されます。また、芳香族は基本的には電子豊富なため、電子吸引性基が置換している必要があります。
例として、2,4,6-トリニトロベンゼンをアルカリで作用させた後、酸処理をすることで2,4,6-トリニトロフェノールが生成されます。

図1.2,4,6-トリニトロベンゼンの芳香族求核置換反応
芳香族求核置換反応の利用法として、Sanger(サンガー)試薬があります。これは2,4-ジニトロフルオロベンゼンとタンパク質との反応で、タンパク質の端のアミノ酸の末端NH2基を標識するのに使用されます。

図2.Sanger試薬によるタンパク質の標識
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SN1反応?SN2反応?
反応式だけを見るとSN1,SN2反応に似ています。では実際はどうなのでしょうか? クロロベンゼンを例に解説します。
まずはクロロイオンが脱離されてアリールカチオン中間体が生成されるのか? 答えはNoです。アリールカチオンは不安定なため解離反応は簡単には起こりません。
つまり、SN1反応ではありません。

図3.クロロベンゼンのSN1反応(進行しない)
では背面攻撃して遷移状態が形成されるのか? 答えはNoです。背面攻撃は芳香族の構造上、立体的に遮蔽されて求核試薬が近づくことができません。
よって、SN2反応でもありません。

図4.クロロベンゼンのSN2反応(進行しない)
よって、芳香族求核置換反応はSN1,SN2反応に似ていますが、いずれも違います。
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反応機構
芳香族求核置換反応はSN1,SN2反応ではありませんが、反応機構としては、求核試薬が脱離されやすい置換基の付け根の炭素に求核攻撃する所までは一緒です。その後、カルボアニオン中間体を生成し、二段階目で脱離基が脱離されます。この時の中間体を発見者の名前を用いてMeisenheimer(マイゼンハイマー)錯体といいます。
芳香族求核置換反応は芳香環脱離基に対して、オルト位またはパラ位に共鳴によってアニオン中間体を安定化する電子吸引性基をもつときにのみ起こります。メタ位はそのような安定化を持ちません。
例として、o-クロロニトロベンゼンとp-クロロニトロベンゼンは130℃で水酸化物イオンと反応して置換生成物を与えますが、m-クロロニトロベンゼンは水酸化物イオンに対して不活性です。

図5.クロロニトロベンゼンと水酸化物イオンとの反応機構
ベンザインとは
ベンザインの特徴
電子吸引性基を持たないハロベンゼンはほとんどの条件で求核攻撃されません。しかし、高温高圧の条件下ではクロロベンゼンでさえも反応させることができます。1928年にDow Chemical社はクロロベンゼンを170気圧の圧力下、340℃においてNaOHの希薄水溶液で処理することにより、大規模な工業スケールでフェノールの合成ができることを発見しました。

図6.クロロベンゼンからフェノールへの合成
同様の反応として、液体アンモニアを溶媒にしてブロモベンゼンをカリウムアミドと反応させるとアニリンが得られます。しかし、ブロモベンゼンのC1位に放射性C14で標識した場合、置換生成物のC1位とC2位に等量の標識がみられました。このことにより、C1,C2位が等価である対称性のある中間体の存在を示唆されました。

図7.ブロモベンゼンからアニリンへの合成
この対称形の中間体はベンザインと言われます。ベンザインはベンゼンの一つの二重結合が三重結合に置き換わった構造であり、非常に反応性に富んでいるため単離不可能です。ブロモベンゼンから臭化水素が脱離された後、アンモニアがC1,C2位のどちらの炭素からも反応可能であるため、二つのアニリンが50:50で生成されます。

図8.ブロモベンゼンからアニリンへの合成の反応機構
ベンザインの混成軌道
ここで、ベンザインの混成軌道について解説していきます。ベンザインの三重結合部位はsp混成軌道の様に思われますが、実際はsp2混成軌道です。
典型的なアルキンの三重結合は二つの互いに垂直なp-pの重なりによって形成されるπ結合をもっていますが、ベンザインの三重結合はp-pの重なりによって形成された1個のπ結合とsp2-sp2の重なりによって形成された1個のπ結合を有しています。後者の結合は環平面内にあり非常に弱いです。そのため、ベンザインは不安定であり反応性に富んでいるという訳です。

図9.ベンザインの混成軌道図
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まとめ
・芳香族求核置換反応…電子吸引性基をもった芳香族が電子豊富な求核試薬から求核攻撃をされ、置換する反応
・芳香族求核置換反応はSN1,SN2反応に似ているが、どちらでもない。
・芳香族求核置換反応は芳香環脱離基に対して、オルト位またはパラ位に共鳴によってアニオン中間体を安定化する電子吸引性基をもつときにのみ起こる。
・C1,C2位が等価である対称性のある中間体としてベンザインがあり、三重結合ではあるがsp2混成軌道
参考文献「マクマリー有機化学(中)」J. McMurry 著
もう少し芳香族の反応や他の有機化学反応について詳しく知りたい方はオススメです。
本日のブログはここまで。 最後まで読んで頂きありがとうございました。

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