化学熱力学とは? “反応が起こる理由”をエネルギーから理解する

物理化学

こんにちは。ミドリケムです。

今回は化学熱力学について解説していこうと思います。化学熱力学(熱化学)はその名の通り熱力学の知識を化学に応用するといった分野であり、物理化学の三大柱の一つです(残り二つは量子化学、化学速度論)。

とはいっても熱力学は目には見えないからイメージがわきにくくて苦手だという人も多いと思います。実際、私自信も苦手でした。

さらには、熱力学というと、その名の通り「熱」と「力学」、つまり沸騰したヤカンの蓋が空いたり、蒸気機関車のイメージがありますよね?(今回のTOP画像も蒸気機関車にしました)

化学にあまり関係無いんじゃないか?と思いますよね? しかし、実際は電気化学や界面化学にも応用されており、化学の世界では必ず学習する分野です。

そもそも、「熱」も「力学」もエネルギーです。世の中の物理、化学現象はなぜ起こるのか?それはその現象が起こった方がエネルギー的に安定しているからです。当ブログでも今まで何度もエネルギーについて解説してきましたね?化学を学ぶ上でエネルギーは切っても切り離せない存在です。

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今回の記事ではなぜ、熱力学を勉強しなければならないのか?熱力学が化学にどう影響するのか?基礎の分野から解説していきます。

当記事では主に
・熱と温度の違い
・熱力学第零法則(熱的平衡)
・熱力学の構成(内部エネルギー、仕事)
・系(孤立系、断熱系、閉鎖系、開放系)
・ボイル・シャルルの法則、気体の状態方程式
・熱力学的平衡(熱的平衡、力学的平衡、化学的平衡)
・状態関数
・なぜ熱力学が必要なのか?
といった熱力学を学習する上での基礎知識を解説し、今後の発展的な熱力学の学習に繋げていきます。

参考文献「熱力学 ―基礎と演習―」山下 弘巳 他 著
この文献は入門書の様に簡単すぎず、またアトキンスやバーローのような量子化学や化学速度論等が絡んでこなくて難しすぎない書籍であり、さらには問題演習もあり、熱力学の基礎を学ぶ上では大変有効な書籍です。

また、参考文献ではありませんが、熱力学は「エネルギー管理士(熱分野)」という国家資格で必ず勉強しなくてはいけない分野です。少し化学とズレる部分もあるかとは思いますが、私自信もエネルギー管理士の資格を勉強して熱力学の復習に大変役に立ちました。その時に使用した参考文献、過去問題集も併せて掲載しておきます。

「エネルギー管理士 熱分野 超速マスター」TAC出版

「エネルギー管理士試験熱分野模範解答集」 橋本幸宥 他 著

熱と温度について

そもそも「熱[J]」とは何でしょうか?パッと思いつく事は熱を加える、つまり加熱することで「温度[K or ℃]」が上昇することでしょう。しかし、加熱=温度上昇ではありません。化学反応に用いられたり状態の変化(固体→液体→気体)、つまり分子の運動に使われたりします。

・同じ温度の物体の量を10倍にしても、温度はそのままである。
・同じ温度の物体の量を10倍にすると、熱量は10倍になる。

熱のように物質量に依存する性質は示量性といい、一方、温度のように物質の量には関係なく、強さを示す性質は示強性といいます。熱の移動は主にミクロな粒子(分子・原子・イオン)の運動を活発化させることでマクロ的に変化させる(気体の膨張、圧縮等)ものであり、温度は熱をどれだけ相手に渡したり、あるいは受け取ったりしたのかを表す尺度です。

熱力学第零法則とは?

二つの物質が接触した時、熱は高温から低温へ移動します。熱の移動がしきった、言い換えると熱の移動するが無くなり熱移動の尺度(強さ)を示す温度が一定となった時、熱的平衡となったといいます。

下の図で表すと、AとBの風船が熱平衡、AとCの風船が熱的平衡となった時、BとCも熱的平衡になったと言えます。これを熱力学第零法則といいます。

図1.熱力学第零法則

熱力学の構成

熱は注目する物体間のみを移動するわけではありません。図1では熱移動を風船間のみに限定しましたが、実際は空気中へと逃げていきます。注目している物体をといい、周りの環境を周囲といいます。

系と周囲との概念図を以下の図2に示しました。ここで系の全エネルギーを内部エネルギー[J]といい、系が持つ化学的エネルギー、運動エネルギー、電気エネルギー、核エネルギー等全ての起源のエネルギーの総和を表します。

内部エネルギーの絶対値を知る事は難しいですが、系と周囲との間で熱あるいは力学的な仕事がやりとりされれば、内部エネルギーは変化します。その変化量⊿Uさえわかれば十分です。

また、仕事[J]とは系によって周囲になされる力学的エネルギーであって、最も典型的な例は気体の膨張または圧縮です。仕事W[J]の定義は力[N]×距離[m]です。

この概念図は熱力学第一法則で重要となってきます。

図2.熱力学の構成を示す概念図

ここで登場した系について解説していきます。系は主に四つに分類されます。

孤立系…物質も熱も仕事もやりとりしない完全に周囲から遮断された系
     (例:変形しない厳密な断熱容器の中の気体)
断熱系…物質および熱は出入りしないが、仕事のやりとりはある系
     (例:内壁を断熱材でコートし、先端を封じたシリンジの中の気体)
閉鎖系…物質は出入りしないが、熱と仕事はやりとりする閉じた系
     (例:内壁を断熱材でコートしていない、先端を封じたシリンジの中の気体)
開放系…物質も熱も仕事もやりとりする開いた系
     (例:蓋の無い容器の中の気体)

図3.系の分類

ボイル・シャルルの法則、気体の状態方程式

高校物理、化学でも学習する熱力学の最も基本的な内容はボイル・シャルルの法則気体の状態方程式です。変化前の圧力をP[Pa]、体積をV[m3]、温度をT[K]、変化後の圧力をP’[Pa]、体積をV’[m3]、温度をT’[K]とすると、以下の式が成り立ちます。

ーボイル・シャルルの法則ー

PVT=PVT\frac{PV}{T}=\frac{P’V’}{T’}

これはロバート・ボイル氏が発見したボイルの法則PV=P’V’、ジャック・シャルル氏が発見したシャルルの法則V/T=V’/T’が合体した法則です。

また、ボイル・シャルルの法則を変形させると、PV/T=定数、PV=定数×Tとなり、以下の気体の状態方程式が導き出せます。

ー気体の状態方程式ー

PV=nRTPV=nRT

ここで物質量n[mol]、気体定数R=8.314…[JK-1mol-1](無理数)となります。つまり、系から物質の出入りが無ければ物質量も一定となりnR=定数となります。

ここで気になるのがPVとは何であろうか?なぜPVだけ左辺に残し、重要視しているのか?となりますね。PVは圧力[Pa]×体積[m3]です。これらの単位を変形させると、以下の通りとなります。

Pa×[m3]=[N][m2]×[m3]=N×[m]=J[Pa]\times[m^3]=\frac{[N]}{[m^2]}\times[m^3]=[N]\times[m]=[J]

つまり、圧力×体積P[Pa]×V[m3]=仕事W[J]となります。気体の状態方程式は気体の仕事を表す式といことになります。

また、今回の気体定数の単位は[JK-1mol-1]で表しましたが、これも違う場合があります。そうなると、定数の値も変わるため、注意が必要です。

また、今回は気体分子同士が相互作用しないことを前提に解説しました。このような気体を理想気体といいます。しかし、実際の気体には分子間同士にファンデルワールス力等、相互作用が働き、ボイル・シャルルの法則、気体の状態方程式とは少しズレが生じます。このような気体を実在気体といいます。

熱力学的平衡とは?

平衡は主に三つあります。一つ目は先程紹介した熱的平衡です。

二つ目は力学的平衡です。系内のどの場所においても一定の均一な圧を受け、一定、均一な温度に保たれた閉じた系は時間の経過とともに系の特性の変化がそれ以上起こらない状態に到達します。このような状態に達した場合は系の圧力、体積、温度は変化しないため、力学的平衡といいます。

三つ目は化学的平衡です。これは化学者にとって一番なじみがあるかもしれません。これは系のいかなる相(固相、液相、気相)においても、あるいは相の間、例えば液体と固体の間にもそれ以上の化学反応がなく、各相の化学組成が一定な場合を化学的平衡といいます。

そして、これら三つの平衡(熱的平衡、力学的平衡、化学的平衡)が同時に達する時、熱力学的平衡といいます。

勘違いしないでほしいことは平衡は全く何も起きていないわけではありません。正方向と逆方向の変化が同時に同じ大きさ、もしくは速度で働いているため、見かけ上は何も起きていない様に見えるだけです。

状態関数とは?

ここで、とある系を圧力P、体積V、温度T軸として三次元の空間をつくり、始状態(P1,V1,T1)から終状態(P2,V2,T2)への状態変化について考察しましょう。始状態と終状態は熱力学的平衡です。数学ではx,y,zを変数といいましたね。P,T,V状態変数といいます(P,Tは示強性、Vは示量性)。熱力学的平衡である始状態、終状態は値が変化しないため、このように状態変数によって表すことができます。

始点から操作して終点まで状態を変化させます。この時、経路A(定容過程→等温定圧過程)経路B(等温定容過程→定圧過程)経路C(二段階過程ではなく一段階過程)の三通りの経路を経由して変化させました。しかし、どのような経路であろうと系の内部エネルギーの変化量⊿Uは変化しません。このような熱力学的特性を状態関数といいます。

図4.三次元で表した状態変数、および状態関数

なお、状態関数に関しては内部エネルギーUだけではなく、エンタルピーH、エントロピーS、ギブス自由エネルギーG等も当たります。聞きなれない用語ですが、今後解説していきます。

また、熱Qや仕事Wは状態関数ではありません。

まとめ、熱力学を学ぶ重要性

・示量性…物質量に依存する性質(熱Q、体積V)
・示強性…物質の量には関係なく、強さを示す性質(温度T、圧力P)
・熱力学第零法則…系Aと系Bが熱的平衡、系Aと系Cが熱的平衡である時、系Bと系Cも熱的平衡
・系全体のエネルギーを内部エネルギーUといい、そこに周囲から物質、仕事W、熱Qが出入りする
・系は四つに分類される(孤立系、断熱系、閉鎖系、開放系)
・ボイル・シャルルの法則

PVT=PVT\frac{PV}{T}=\frac{P’V’}{T’}

・気体の状態方程式

PV=nRTPV=nRT

・熱力学的平衡(熱的平衡、力学的平衡、化学的平衡の三つの平衡が成立)
・状態関数…始状態から終状態に変化する時、どのような経路であろうと変化量が同じである特性(内部エネルギーU、エンタルピーH、エントロピーS、ギブス自由エネルギーG)

ここまで、熱力学の基礎を解説してきましたが、これでもまだ”熱力学って化学に必要なの?”と疑問に感じている方もいらっしゃると思います。実際、私自信もそうでした。

冒頭で熱力学はエネルギーであるといいましたが、熱力学を学ぶ上で最も重要なことはそのエネルギー効率を知る事です。例えば火力発電は燃料を燃焼させて蒸気を作り、それがタービンを回して電気をつくる、つまり、化学エネルギー→熱エネルギー→力学的エネルギー→電気エネルギーとエネルギーは変換しています。しかし、それらのエネルギー変換効率は100%ではなく、無駄な部分が生じています。実際火力発電の効率は35~42%、効率の良い発電でも50~55%であり、残りは無駄になっています。今日では省エネルギー化が唄われています。発電だけではなく、化学製造や環境保全等に使われるエネルギーの変換効率を上げるのも化学技術者の役目です。

もう一つの重要な目的として、状態変化や化学反応がどの方向にどこまで進むのか?つまり、変化の行方を知る事です。反応を正反応に進めるためにはどのような実験設計を考えればよいか、この過程は発熱か吸熱か、繰り返しになりますが、世の中の物理、化学現象はエネルギーが関わってきます。では、どれくらい熱、圧力を加えれば、逆に減少させればどのような現象が起こるのか、定量的に数値化して考えていくのが熱力学です。

熱力学的思考法を身につけることは変化の行方を定性的、定量的に判断する能力につながり、化学反応全般を定量的に取り扱う第一歩となりうるでしょう。

本日のブログはここまで。 最後まで読んで頂きありがとうございました。

プロフィール
ミドリケム

はじめまして。ミドリケムです。
性別:男性
年代:30代半ば
専攻:応用化学、有機化学

大学で応用化学を専攻し、研究室で有機合成をしてきました。
社会人でも転職は2回しましたが、現在でも有機化学をしています。

スキルアップ重視でブログを始めました。もちろん収益化もできたら嬉しいのですが笑

化学の基本的な事から専門的な事まで幅広く取り扱おうと思っています。中には簡単すぎて退屈、難しすぎてわからないと感じる事もあるかと思います。

少しでも化学に興味を持ってくれたらと思っています。疑問やここを解説してほしい、もう少しわかりやすく解説してほしい、などなど些細な事でも構いませんので、何かあればお問い合わせから連絡して下さい♪

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