こんにちは。ミドリケムです。
本日は化学熱力学最後の記事、ギブス自由エネルギー(「ギブズ」自由エネルギーともいいますが、当記事では以下「ギブス」と表記)について解説していきます。
ギブス自由エネルギーは化学熱力学の中でも最も重要な状態関数といっても過言ではありません。なぜなら、ギブス自由エネルギーが反応を進める決め手となっているからです。
結論から言うと、ギブス自由エネルギーとは、一定温度・一定圧力で化学反応が自発的に進むかどうかを判断するための指標です。ΔGが負なら自発的に進み、正なら外部からエネルギーが必要です。
発熱反応だからといって必ず自発的に進むとは限りません。また、吸熱反応でも自然に進行するものがあります。エンタルピーだけでは反応の自発性を判断できないため、エントロピーを考慮した「ギブス自由エネルギー」が導入されます。
どういうことなのか? 詳しく解説していきます。
今回の記事では
・ギブス自由エネルギー
・ヘルツホルム自由エネルギー
・標準反応ギブス自由エネルギー
・化学反応の効率
・化学ポテンシャル
・ギブス自由エネルギーと平衡定数との関係式
・ファントホッフの式
・クラウジウス・クラペイロンの式
について解説していきます。
参考文献「熱力学 ―基礎と演習―」山下 弘巳 他 著
この文献は入門書の様に簡単すぎず、またアトキンスやバーローのような量子化学や化学速度論等が絡んでこなくて難しすぎない書籍であり、さらには問題演習もあり、熱力学の基礎を学ぶ上では大変有効な書籍です。
また、参考文献ではありませんが、熱力学は「エネルギー管理士(熱分野)」という国家資格で必ず勉強しなくてはいけない分野です。少し化学とズレる部分もあるかとは思いますが、私自信もエネルギー管理士の資格を勉強して熱力学の復習に大変役に立ちました。その時に使用した参考文献、過去問題集も併せて掲載しておきます(ギブス自由エネルギーは範囲外ですが)。
「エネルギー管理士 熱分野 超速マスター」TAC出版
「エネルギー管理士試験熱分野模範解答集」 橋本幸宥 他 著
ギブス自由エネルギーとは?
もう一度定義を言うと、ギブス自由エネルギーとは、一定温度・一定圧力で化学反応が自発的に進むかどうかを判断するための指標です。どういう事なのか、今から導出して説明していきます(それと同時にヘルツホルム自由エネルギーも導出しますが)。
熱力学第二法則によれば、エントロピー以外の状態関数が変化しない孤立系ではエントロピーが増える方向が自発変化の方向です。
しかし、実際の多くの過程はエントロピー変化と同時に系と外界の間でエネルギー移動を伴うため(厳密な孤立系は宇宙全体のみ)、自発変化の方向を決定するためにはエネルギー(熱、内部エネルギー、エンタルピー等)移動とエントロピー変化の両方を考慮に入れる必要があります。
そこで、熱力学第一法則と第二法則を結合し、自由エネルギーという新しい状態関数が必要となるわけです。
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ある一定温度Tで外界と熱平衡にある系を考えます。系と外界で熱としてのエネルギー移動があると、クラウジウスの不等式は
となります。この変化についてわかりやすくするために、定積条件と定圧条件の二通りで考えます。
定積条件において、dW=pdV=0となるため、熱力学第一法則より、dU=dQとなります。よって、
となります。この時、内部エネルギー一定(dU=0)の孤立系の場合、dS≧0となり、自発変化は系のエントロピー変化が増加する方向であるため成立します。
一方、開放系において系のエントロピー変化がない場合(dS=0)、dU<0となります。これは外界のエントロピーが増加し(系と外界全体をみるとエントロピーは必ず増加するため)、そのために系から外界へ熱としてエネルギーが移動する(dU=dQが減少)。のが自発的な変化であることを意味しています。
一方、定圧条件ではdQ=dHなので、
となります。つまり、開放系でエントロピー変化が無い場合(dS=0)でも、dH<0(発熱反応)が自発的な変化であることを意味しています。
以上の考察は極端な例としてエントロピー、もしくはエネルギー変化を0と仮定しましたが、実際には両方が自発変化に寄与してくることがほとんどです。
ここで、両方の寄与をまとめて簡単に表現するために、以下の新しい熱力学関数を定義します。
積分すると、
Aがヘルツホルム自由エネルギー、Gがギブス自由エネルギーといいます。①、③式よりdA≦0(⊿A≦0)、②、④式より、dG≦0(⊿G≦0)となります。
まとめると、ヘルツホルム自由エネルギー(⊿A=⊿U-⊿dS)は定温、定積条件下で物理・統計力学の基礎となり、ギブス自由エネルギー(⊿G=⊿H-T⊿S)は定温、定圧条件下で化学平衡、相平衡解析に使用されます。そして、どちらも⊿A≦0、⊿G≦0の時に自発的に進行します。つまり、
・⊿A<0、⊿G<0であれば、その過程は自発的である。
・⊿A=0、⊿G=0であれば、系は平衡に達している。
・⊿A>0、⊿G>0であれば、その過程は自発的ではない(逆反応)。
となります。
ここで、当ブログは化学に関する解説をメインとしているため、後者のギブス自由エネルギーについて解説していきます。ヘルツホルム自由エネルギーについて知りたかった人は申し訳ありません。
また、冒頭でも、反応を考える上でエンタルピー、およびエントロピーどちらも必要と言いました。ギブス自由エネルギー(⊿G=⊿H-T⊿S)より、ギブス自由エネルギーを考えるということはエンタルピー、エントロピーどちらも考えているということになります。
エネルギー推移図で表すと以下の図の様になります。ギブス自由エネルギーは反応開始前と終了時とのエネルギー差です。⊿G<0だと系全体のエネルギーは低下しているため安定化して反応が進行し、⊿G=0だと系全体のエネルギー差は無いため、安定、不安定でもなく平衡状態となり、⊿G>0だと系全体のエネルギーは増加しているため不安定化して反応が進行しません(むしろ逆反応が進行)。

図1.反応エネルギー推移図
ギブス自由エネルギーは、定温・定圧条件で系が外部へ取り出せる最大の有効仕事を表します。
また、勘違いしないでほしいのは、ギブス自由エネルギーの負の値が大きいからといって、反応が早いわけではありません。反応速度は活性化エネルギーの大小によって決まります。
ギブス自由エネルギーの負の値が大きいということは、生成物が熱力学的にかなり安定しているということです。
冒頭で「ギブス自由エネルギーが反応を進める決め手となっている」といったのはこういう意味です。また、化学熱力学の始めの記事で「熱力学は変化の行方を知ること」が重要といいましたが、ここでそれが知ることができるというわけです。
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標準反応ギブス自由エネルギーとは?
エンタルピーの解説の時でも言いましたが、一般的に化学反応は大気圧条件下で行われることがほとんどです。よって、化学反応を考察するときはギブス自由エネルギーを用いることが一般的です。
ここで、標準生成ギブスエネルギー⊿Gf゜(fはformationの略)とは、ある化合物1 molが、その構成元素の最も安定な単体から標準状態(通常25 ℃、1 barなど)で生成するときのギブスエネルギー変化ΔGを表す量、標準反応ギブス自由エネルギー⊿Gr゜(rはreactionの略)とは、ある化学反応が標準状態(通常1 bar、25 ℃、溶液は1 mol/Lなど)で進行したときのギブス自由エネルギー変化のことです。なお、エンタルピー、エントロピーでも同様のことが言えます。
また、標準反応ギブス自由エネルギー⊿Gr゜は標準生成ギブス自由エネルギー⊿Gf゜を用いて、
と表すことができます。ここで、νは化学量論係数です。なお、エンタルピー、エントロピーでも同様の式が得られます。
言葉で説明しても実感がわかないかもしれませんので、実際に問題演習をしてみましょう。
【問題】
次表の数値は25℃(298.15K)、1barにおける値である。この数値を用いて、以下の反応の25℃(298.15K)、1barにおける標準反応ギブス自由エネルギー⊿Gr゜を求めよ
H2(g)+1/2O2(g)→H2O(l)

表1.H2(g)、O2(g)、H2O(l)の標準生成エンタルピー、エントロピー
(解)
⊿Hr゜=-285.83-(0+1/2×0)=-285.83kJ<0(発熱反応)
⊿Sr゜=69.91-(130.68+1/2×205.14)=-163.34JK-1<0(気体分子が減るため、乱雑さ減少)
したがって、
⊿Gr゜=⊿Hr゜–T⊿Sr゜=-285.83kJ-298.15K×(-0.16334JK-1)=-237.13kJ<0
⊿Gr゜<0のため、この反応は自発的に進行します。
化学反応の効率
燃料電池の様に化学反応を電気エネルギーに変化するような非膨張仕事について効率を考察します。⊿G=⊿H-T⊿Sを変形させると、-⊿H=-⊿G-T⊿Sで考えると、-⊿Hはある化学反応が持つ反応エネルギーであり、そのうち最大でも-⊿G分の仕事しか変えられません。-T⊿Sは束縛エネルギーとなり、仕事として利用できません。

図2.反応エネルギーと最大非膨張仕事との関係
よって、化学反応を電気エネルギーに変換するような非膨張仕事の最大効率ηは
となります。よって、上記の表から
と、効率は0.83となります。ちなみに、熱機関による発電効率はカルノーサイクルが上限になるため、良くて0.65です。明らかに燃料電池の方が発電効率が良いですね。
これもまた、化学熱力学の始めの記事で「そのエネルギー効率を知る」事が熱力学を学ぶ上で最も重要であるといいました。しっかりと理解しましょう。
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ギブス自由エネルギーと平衡定数との関係式
ここで、化学熱力学で最も重要な式を導出します。
とある理想気体が入った系内について考えます。エンタルピーH=U+PVの両辺を微分します。この時、熱力学第一法則より、dU=dQ+dW=TdS-PdVなので、
となります。ギブス自由エネルギーdG=dH-TdS-SdTに代入すると、
定温状態時ではdT=0なので、
となります。よって、定温時、系全体が気体である時、ギブス自由エネルギーは圧力依存となり、始状態をPi、終状態をPfとすると、
となります。ここで、新しく化学ポテンシャルμについて定義します。化学ポテンシャルとは1molあたりのギブス自由エネルギーであり、
と表すことができます。偏微分が出てきて拒絶反応を起こしてしまった方は純物質の化学ポテンシャルμ=G/nと思って下さい。かくいう私も高校までは数学は得意でしたが(自慢にはなりますが数学検定準1級保有)、大学では応用化学を専攻していたので、大学数学はあまり詳しくありません…
ここで、定温Tで初期状態を標準状態(P゜=1bar)、ある状態の圧力をPとすると、⊿G=G(T,P)-G(T,P゜)なので、両辺をnで割り整理すると、
となります。μ(T,P)=μ゜と表し、これを標準化学ポテンシャルといいます。系内が理想気体である時、上記の式が成り立ちます。ここで、系がA→Bへと状態変化する時、標準化学ポテンシャルが変化するので、1molあたりのギブス自由エネルギー変化は
となります。ここで、反応式aA+bB→cC+dDを考えます。これらの反応比Qは以下のようにあらわすことができます。
aは活量(反応に使われる実効モル濃度)です。理想気体ではQは分圧比PB/PAと等しくなります。よって、
温度一定の時、⊿Gr゜は一定の値をとり、さらに平衡時ではQ=K(熱力学平衡定数)、⊿G=0となります。よって、化学熱力学で最も重要な式を今から表記します。
⊿Gr゜=-RTlnK
導出は難しかったですが、今回の記事で最も言いたかったことはこの式です。導出は理解できなくても、この式だけは必ず覚えて下さい。今までの化学熱力学の記事はこの式のためにあったといっても過言ではありません。
ちなみに、
・K>1の時、⊿G<0となり、その過程は自発的である。
・K=1の時、⊿G=0となり、系は平衡に達している。
・0<K<1の時、⊿G>0となり、その過程は自発的ではない(逆反応)。
となります。上述した通りとなりますね。
ファントホッフの式とは?
⊿Gr゜=⊿Hr゜-T⊿Sr゜、⊿Gr゜=-RTlnKから、⊿Gr゜を消去すると、
となります。この両辺をTで微分すると、
となります。これを、逆に(T1,K1)→(T2,K2)で積分すると、
となります。これを、ファントホッフの式といいます。この式より、圧力一定条件下で平衡状態での温度変化の影響が議論できます。例えば、⊿Hr゜<0(発熱反応)の時、温度が上昇するとKは小さくなる、つまり平衡は逆反応へ進行します。逆に⊿Hr゜>0(吸熱反応)の時、温度が上昇するとKは大きくなる、つまり平衡は正反応へ進行します。これはル・シャトリエの原理に一致しますね。
ここで、問題演習をしましょう。
【問題】
N2O4(g)⇆2NO2(g)の気相反応において、25℃におけるN2O4(g)とNO2(g)の標準生成エンタルピー⊿Hf゜はそれぞれ+9.16kJmol-1および+33.18kJmol-1である。右に進む反応の25℃での標準反応エンタルピー⊿Hr゜を求めよ。また、100℃における熱力学平衡定数Kを求めよ。ただし、気体は理想気体と仮定し、25℃における熱力学平衡定数として0.167とする。また、⊿Hr゜は温度に依存せず一定とせよ。
(解)
ファントホッフの式より、
K1<K2より、反応は100℃の方が進行しやすいとわかります。
クラウジウス・クラペイロンの式とは?
ここで、気相と液相との気液平衡について考えていきます。二つの相が平衡状態にある時、それぞれの化学ポテンシャルは
となります。dG=VdP-SdTの両辺をnで割ると、
となります。ここで、Vmはモル体積、Smはモルエントロピーです。よって、
となります。vapとは蒸発(vaporization)の略です。ここで、平衡のため、⊿Gvap=⊿Hvap-T⊿Svap=0、⊿Svap=⊿Hvap/Tとなるため、
となります。これを、クラペイロンの式と言います。
ここで、蒸発時では⊿V=Vgm-Vlm≈Vgm=RT/P(1mol時、気体の状態方程式はPV=RT)と近似できるため、
となります。(T1,P1)→(T2,P2)で積分すると、
これを、クラウジウス・クラペイロンの式といいます。
ここで、ファントホッフの式とクラウジウス・クラペイロンの式と似ていますね。蒸発平衡(liquid⇆gas)も一種の化学平衡だからです。クラウジウス・クラペイロンの式は「蒸気圧版のファントホッフの式」と考えると理解しやすいです。どちらも平衡定数(あるいは蒸気圧)が温度によってどのように変化するかを、エンタルピー変化を用いて表した式です。
まとめ
・ヘルツホルム自由エネルギー(⊿A=⊿U-⊿dS)…定温、定積条件下で物理・統計力学の基礎
・ギブス自由エネルギー(⊿G=⊿H-T⊿S)…定温、定圧条件下で化学平衡、相平衡解析
⊿A≦0、⊿G≦0の時に自発的に進行
・ギブス自由エネルギーの関係式
・K>1の時、⊿G<0となり、その過程は自発的である。
・K=1の時、⊿G=0となり、系は平衡に達している。
・0<K<1の時、⊿G>0となり、その過程は自発的ではない(逆反応)。
・ギブズ自由エネルギーは定温・定圧条件で系が外部へ取り出せる最大の有効仕事を表し、エンタルピーだけでは自発性は判断できないエントロピーも考慮した状態関数
・ギブス自由エネルギーの負の値が大きい程、生成物が熱力学的に安定(反応速度は活性化エネルギーにより決まり、ギブス自由エネルギーとは無関係)
・化学反応の効率
・化学ポテンシャル
・ファントホッフの式
・クラウジウス・クラペイロンの式
以上が化学熱力学で重要なギブス自由エネルギーの解説でした。実際、化学反応の進行を決めているため、他の分野(機械工学等)での熱力学ではあまり重要視されていませんが、化学の分野では重要視されます。最初は式だけを覚えがちですが、「エンタルピーとエントロピーを同時に考える指標」と理解すると、平衡定数や電池の起電力など多くの分野につながります。
逆に化学ではカルノーサイクルしかサイクルは学習しませんでしたが、他の分野ではブレイトンサイクル、ランキンサイクル、逆ランキンサイクル、オットーサイクル、ディーゼルサイクル等、様々なサイクルを学習すると思います(私は応用化学専攻なのであくまで想像です。申し訳ありません…)。
そして、数式ばかりで混乱された方も多いと思います。とりあえず、なぜ、この公式が成立するのか、覚えなくても導出を見て何となくイメージできたら良いと思います。
次回の記事では化学熱力学の総まとめ、これだけは知ってほしい公式等をまとめます。
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本日のブログはここまで。最後まで読んで頂きありがとうございました。


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