こんにちは。ミドリケムです。
前回の記事で熱力学第二法則からエントロピーのことについて導入しました。今回の記事で解説する熱力学第三法則もエントロピーが関係してきます。
しかし、エントロピーっていまいちピンとこないですよね?そこで本記事ではエントロピーについてもう少しわかりやすく解説してから熱力学第三法則について解説していきます。
今回の記事では
・エントロピー
・乱雑
・カルノーサイクル図のT-s図
・逆カルノーサイクル(ヒートポンプ、冷却効率)
・クラウジウスの不等式
・自然界におけるエントロピー(カーボンニュートラル、バイオマス)
・熱力学第三法則
について解説していきます。
参考文献「熱力学 ―基礎と演習―」山下 弘巳 他 著
この文献は入門書の様に簡単すぎず、またアトキンスやバーローのような量子化学や化学速度論等が絡んでこなくて難しすぎない書籍であり、さらには問題演習もあり、熱力学の基礎を学ぶ上では大変有効な書籍です。
参考文献「トコトンやさしいエントロピーの本」石原顕光 著
エントロピーが何なのかいまいちピンとこない人にオススメです。
前回の記事(熱力学第二法則、エントロピー)

エントロピーとは?
ここで、前回の記事の復習をします。
・熱力学第二法則
トムソン(ケルビン)の原理
…温度の決まった1つの熱源から熱を吸収し、それを全て仕事に変えて、それ以外に何の変化も残さない過程は実現できない。仕事が熱に変わるのは不可逆である。(η≠1)
クラウジウスの原理
…外部に何の変化も残さず、低温の熱源から高温の熱源へ熱を移すことは不可能である。高温熱源から低温熱源への熱の移動は不可逆である。
ここで、登場するのがエントロピーであり、系の乱雑さやエネルギーの質を示すものである。これは以下の式で表すことができ、状態関数である。
カルノーサイクルのような可逆変化ではエントロピー変化量は⊿S=0であるが、系だけではなく周囲も含めて全体的にみると、エントロピーは増大している。
よって、熱力学第二法則をまとめると、エントロピーは決して減少せず、宇宙全体を孤立系としてみると自然な変化はエントロピーが増大する方向にのみ自発的に進む。
マーカーを引いた箇所が重要なポイントですが、まだ実感できませんよね? そもそも乱雑って何? となりますよね。これについて詳しく解説していきます。
乱雑とは?
もう一度いうと、エントロピーとは乱雑さを示すものです。
ここで例を言うと水に塩化ナトリウムを加えるとします。塩化ナトリウムはかき混ぜなくても勝手に水和され溶解、つまり溶媒に分散しますよね?そして、溶解した塩化ナトリウムは勝手に再結晶しません。つまり、不可逆変化です。
他にも、香水を吹くと、部屋全体に分散します。その香水は勝手に集まりません。
熱いお茶も放置しておくと熱が空気中に分散され、冷えます。
つまり、物質、エネルギーが分散(乱雑さ増大)し元に戻らない(不可逆変化)ということです。

図1.エントロピーの増大のイメージ
ここで、先程の例で水が溶解した塩化ナトリウムは勝手に再結晶しないと解説しました。しかし、水を沸騰して気化したり、冷却すると再結晶したりして、再び塩化ナトリウムが固まります。これは塩化ナトリウムだけみるとエントロピーは減少しています。しかし、系だけではなく周囲全体みると、エントロピーは増大しています。
前者は水が気化するということは水分子が周囲に分散し、また、加熱するということは電気エネルギーや化学エネルギーが熱エネルギーに変換され、熱エネルギーが分散されます。
後者は冷却するということは電気エネルギーを使って系内の熱エネルギーを追い出し分散されます。
よって、塩化ナトリウムだけではなく、周囲全体をみるとエントロピーは増大しています。
熱力学第二法則のトムソン(ケルビン)の法則でも、周囲に分散されやすい熱を全て仕事に変換することは難しく(理想の熱機関であるカルノーサイクルでも熱効率は1未満)、クラウジウスの法則でも、低温という熱が分散された状態で高温に熱を移動することは不可能です(冷蔵庫や冷房もコンセントを差さずに勝手には動かない)。
カルノーサイクルのT-s図
カルノーサイクルは前回の記事ではP-V図を使って解説しました。P-V図が基本的です。

図2.カルノーサイクルのP-V図
ここで、T-s図で表すと、以下の通りとなります。

図3.カルノーサイクルのT-s図
ここで、前回同様、一つずつの過程を確認していきましょう。おさらいですが、dS=dQ/T、dQ=TdSです。
等温膨張過程(A→B)
等温膨張であるため、⊿T=0であり、Tは定数扱い(=Th)です。よって、周囲から受け取る熱Qhは
となります。
断熱膨張過程(B→C)
断熱膨張であるため、熱のやりとりはありません。グラフからも、dS=0より、dQ=0です。
等温圧縮過程(C→D)
等温膨張であるため、⊿T=0であり、Tは定数扱い(=Tl)です。よって、周囲から受け取る熱Qlは
となります。周囲から熱Ql=-Tl(sB-sA)受け取っているということは、周囲へ熱Ql=Tl(sB-sA)放出しているということです。
断熱圧縮過程(D→A)
断熱圧縮であるため、熱のやりとりはありません。グラフからも、dS=0より、dQ=0です。
熱効率
となり、一致しています。また、系内のエントロピー変化も
となり、可逆変化のため系内だけでみるとエントロピー変化はありません。もちろん、熱Qhの生成、熱Qlの放出を考えると、周囲を含めた全体としてはエントロピーは増大しています。
逆カルノーサイクルとは?(ヒートポンプ、冷却効率)
今回と前回の記事ではカルノーサイクルはA→B→C→Dのサイクルで解説しましたが、逆のD→C→B→Aとサイクルを回すこともできます。これを逆カルノーサイクルといいます。逆のため、膨張、圧縮、熱や仕事の移動が全て逆です。

図4.逆カルノーサイクルのP-V図

図5.逆カルノーサイクルのT-s図
この際、系が仕事WBCされることで熱Qlを吸収し、熱Qhを放出し、系が仕事WDAをします。熱Qh>熱Qlのため、結果的に系内は熱⊿Ql冷却されます。これが、冷蔵庫、冷房の原理です。
と解説しましたが、正確に解説すると実際は逆ランキンサイクルというサイクルを利用しています。当ブログでは化学に関することを解説しており、逆ランキンサイクルは化学から少し離れる(機械工学)ため、解説は省略させて頂きます。申し訳ありません。
くどい様ですが、系内のエントロピー変化は0ですが、系に仕事させる、つまり、電気等を使うため全体で見るとエントロピーは増大します(増大しなければクラウジウスの原理に反します)。
この様に、低温から高温へ熱を移動させることをヒートポンプといいます。
熱効率の逆で冷却効率εというものがあり、
となります。要は熱効率η=W/Qの分母分子が入れ替わっただけです(Q=Qhではないことに注意)。いかに仕事を用いて熱を移動させるかの効率です。
クラウジウスの不等式とは?
カルノーサイクルは熱源が2つ(Qh、Ql)の可逆変化ですが、熱源が複数ある、過程が可逆変化、不可逆変化どちらも存在するサイクルを考えていきます。
例として、A→Bを可逆変化、B→Aを不可逆変化と熱源が二つある過程を考えていきます。

図6.可逆変化、不可逆変化からなるサイクル
ここで、不可逆変化、可逆変化それぞれの熱機関の熱効率をηir、ηrとすると、
となります。η=1-Ql/Qhは熱効率の定義式であり、η=1-Tl/Thはカルノーサイクルの様な可逆過程のみ表すことができます。
もちろん、カルノーサイクルは理想の熱機関であり、ηir<ηrです。よって、ηir–ηr<0であり、
となります。ここで、Qlは熱を失ったため負となっているため、Ql=-Ql‘<0として符合を見直すと、
となります。熱源によって、Q/Tを足せば良いのです。そのため、これを一般化すると、
ここで、∮は周回積分であり、閉じた曲線(ループ)に沿って行う線積分のことです。積分はとある範囲を積み重ねて足していく計算であり、要はQ/Tの総和となります。
よって、図6.のような可逆変化(A→B)と不可逆変化(B→A)からなるサイクルでは
となります。また、
となるため、
となります。これをクラウジウスの不等式といいます。孤立系(断熱系)ではエネルギーのやりとりも遮断されるため、dQir=0となります。そのため、孤立系での不可逆過程では⊿S>0となります。これが孤立系での不可逆過程では自発的に変化が起きるとエントロピーが増大する所以です。
自然界でのエントロピー
宇宙全体を一つの孤立系と考えると、自然界の不可逆変化は全てエントロピーが増大すると解説しました。では、実際に自然界の流れを見ていきましょう。
そもそも、我々はどこからエネルギーを得ているのでしょう? 答えは太陽光と地球内部のエネルギーです。ほとんどは太陽光から得ています。
地球内部のエネルギーは古来、地球に惑星が衝突した際に発生した熱といわれており、その熱が宇宙空間へ放出され、今でもゆっくりと放出されているといわれています。
太陽光は様々な光の波長を有しており、そのうち、紫外線のほとんどはオゾン層に吸収され、青い光が大気により散乱され(空が青い理由)、地球の地表に到達します。その後、熱(赤外光)として、宇宙空間に放出されますが、一部は温室効果ガスにより吸収されます。

図7.太陽光から熱への変化図
化石燃料は古来の生物が地球内部で長年にわたり変化したものといわれています(諸説あり)。そして、生物は植物の光合成からグルコースを得て、食物連鎖によりエネルギーを得ています。
つまり、生物も元を辿ると太陽光からエネルギーを得ており、化石燃料はその古来の生物が地球内部のエネルギーにより変化したものと言われています。よって、化石燃料は古来の光エネルギーの源とも言われています。
化石燃料の使用は温室効果ガスの排出、さらには古来の光エネルギーを熱として大量に放出するため、地球温暖化の促進につながり、使用を抑制しようという働きがあります。
そこで登場したのが、再生可能エネルギーです。再生可能エネルギーは太陽光と地球内部のエネルギーから我々が使用するエネルギー(主に電気)に変換させるものです。太陽光と地球内部のエネルギーは人類が何もしなくても、勝手に熱として宇宙空間に放出されるものであり、その過程の間を我々人類が利用しようというものです。詳しくは以下の図の通りです。

図8.太陽光、および地球の内部エネルギーからの再生可能エネルギーの変換図
太陽光、および地球の内部エネルギーは人類が何もしなくても熱として宇宙空間に放出されます。これらの過程の間を利用すると、余計な熱や温室効果ガスを発生しないクリーンな発電が可能とされています。
そういった意味では再生可能エネルギーという呼び名は間違っているという人もいます。再生されているわけではなく、自然界の一方通行のエネルギーの間を人類が利用しようというわけですからね。
最近では、二酸化炭素を吸収する植物を育成し、燃料(バイオマス)へと変え、それを燃焼することで実質二酸化炭素の排出を0にする研究もされています。この、実質二酸化炭素の排出を0にすることをカーボンニュートラルといいます。

図9.バイオマスの利用(カーボンニュートラル)
少し話が長くなりましたが、自然界は原則、太陽光と地球内部のエネルギーから熱へと変換し、宇宙空間に放出されます。放出されるため、エネルギーは乱雑し、エントロピーは増大します。放出された熱は再び太陽光と地球内部のエネルギーに戻るわけではないので不可逆反応です。
また、宇宙空間には徐々に熱が貯まっていくため、果てしない未来に全てのエネルギーが熱に変換される、つまりエントロピーが最大値に達することを熱的死といわれてきました。しかし、最近の研究ではどうもそんな単純な話ではないとされています。宇宙もまだまだわからないことだらけですね。
熱力学第三法則とは?
ここで、ようやく熱力学の最後の法則について解説していきます。
1906年、ネルンスト氏とプランク氏は「全ての純物質の完全結晶のエントロピーは絶対零度0Kにおいて0である。」と唱えました。すなわち、
この法則を熱力学第三法則といいます。絶対零度でエントロピーが0になるのは完全な秩序をもった結晶だけであり、不規則性や乱雑さが絶対零度でも残る物質はエントロピーは0になりません。
例えば、一酸化炭素COは絶対零度で4.3JK-1mol-1のエントロピーを持ちます。これは結晶中の分子の配列が乱雑なまま凍結されるためです。
まとめ
・エントロピー…系の乱雑さやエネルギーの質を示すものであり、状態関数である。
・エントロピーは決して減少せず、宇宙全体を孤立系としてみると自然な変化はエントロピーが増大する方向にのみ自発的に進む。
・周囲全体をみるとエントロピーは増大している。
・カルノーサイクルのような可逆変化は系内だけでみるとエントロピー変化はないが、周囲を含めた全体としてはエントロピーは増大している。
・逆カルノーサイクル…仕事させることで、低温から高温へ熱を移動させる。これをヒートポンプという。この時の効率を冷却効率という。
・クラウジウスの不等式
・自然界は原則、太陽光と地球内部のエネルギーから熱へと変換し、宇宙空間に放出される。放出されるため、エネルギーは乱雑し、エントロピーは増大する(不可逆過程)。
・熱力学第三法則…全ての純物質の完全結晶のエントロピーは絶対零度0Kにおいて0である。
いかがだったでしょうか? やはり難しくてぼんやりとしたイメージしかつかないかもしれません。何度も復習してインプットしましょう。
次回は最後の状態関数として、ギブス自由エネルギーについて解説します。
本日のブログはここまで。最後まで読んで頂きありがとうございました。

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